アイヌ遺骨の研究利用をめぐって
コタンの会と北大開示文書研究会は2017年5月16日、北海道公立大学法人札幌医科大学を訪問し、対応の松村博文・保健医療学部教授に、塚本泰司学長あての質問書を手渡しました。
2017年5月16日正午、北海道庁道政記者クラブでの記者会見記録(抜粋)
殿平善彦・北大開示文書研究会共同代表
札幌医大の所蔵している(アイヌの)お骨をめぐって、(遺骨から抽出したDNAを利用した)研究がされているという報道がありました。わたしたちが聞いているところによれば、国立科学博物館と山梨大学大学院の研究者が、2010年以降、札幌医大に収蔵されている100人あまりの遺骨のDNAサンプルを採取した、とのことです。今回、基本的には、みなさんのお手元にある質問状を(札幌医科大学に)持っていって、この質問状の内容について、いちおう1カ月間の猶予を切って、文書で回答していただきたい、というふうに申し上げて、学長の塚本(泰司)さんあてに提出したわけであります。北大開示文書研究会は清水裕二さんと私が共同代表ですけれども、その研究会にかかわる方々、それから「コタンの会」のアイヌの方々が、やはり、自分たちの民族の遺骨が(研究材料に)使われたということについて、札医大に直接、話をしたいということもあって、ここに書かれた名前の方は直接、医大にうかがいました。
向こうで対応してくださったのは、松村博文さんという保健医療学部教授が、対応されました。たまたまそこに──たまたまかどうか分かりませんけれど──元札幌医大の教授をしてらっしゃったという百々(幸雄)さんという方が、同席されておりました。
そういう状況で、単に質問書を読み上げるだけではなくて、直接われわれの思いも伝えたいということを申し上げたと同時に、医大の側からも口頭で、我々に対するいくつかの質問がありました。
わたしたちは、どのような遺骨であれ、その遺骨はもともとコタンの墓地に埋葬されていたものであって、どのような経緯であれ、それが持ち出されたのであれば、コタンの構成員、あるいはそこの子孫の了解なしに、お骨が研究材料にされることがあってはならない、と(考えています)。これは過去の研究史のなかで、アイヌの直接の了解をまったく得ないまま、その研究成果も還元されないまま、ひたすら研究材料としてお骨が使われてきたという、明治時代から今日にいたるまで、150年あまりの歴史の中で、遺骨がそういうふうに扱われてきた事実があるわけですから。その怒りをお持ちのアイヌの方々が、今回、この新聞報道に接して、質問書を出すことになったんだ、と理解しております。
正式な回答は1カ月後に出されることになっていますので、わたしたちはそれを受け取ったうえで改めて札医大と話をすることになると思います。
ただ、札医大からひとつ、口頭ですけれども言われたことは、(遺跡調査時に発掘され、そのほかの遺物とワンセットにされて)文化財としての遺骨というものがあって、それは(調査を実施した各自治体)教育委員会に所有権があるのであって、「わたしたち(札幌医科大学)には所有権はありません」とおっしゃってましたね。その言葉に納得したわけではありませんけれども。従って、「教育委員会の了解を得て研究が行なわれたのである(から札幌医科大学の対応に問題はなかった)」というふうに医大のほうは話をしておりました。「北海道アイヌ協会の了解も得た」とも言っていました。
しかし、それはあくまでも、遺骨というものは、コタンの構成員の了解を得ることなしに、道教委や(市町村)教育委員会が勝手に(研究のためのサンプル採取を)了解できるものでもないでしょうし、同時に、いくら教育委員会が了解したと言っても、札幌医大はそれについて、単なる(保管)場所を提供して置いてあるだけ、ということではないわけですから、当然、札幌医大の研究に関する責任も存在するわけであって。そのことは、いろんな形で(札幌医科大学が回答書で)説明をなさるだろうと思いますけれど、1カ月にその話し合いがなされるだろうというふうに思います。
それともうひとつは、研究者がこの問題についてどう考えるか、ということがあります。たまたま同席された百々(幸雄)さんという方が、前の(元の)日本人類学会の会長さんなんだそうですけれども、元の札幌医大の教授ということで同席なさったんだというふうにおっしゃっておりましたけれども。「われわれはこの研究をアイヌのためにしている」「われわれの研究がアイヌの先住性を証明するんだ」と。「だから、われわれの研究がされなかったら、アイヌの人たちのルーツが分からなくなって、あなたたちの先住性が証明できなくなりますよ」「あなたたちが先住民だと言っているのは、われわれが研究したからですよ」ということを、非常に強調されました。
しかしそれはまったくね(ナンセンスである)……。われわれも百々さんの発言にとても驚いたんですけれども。人類学者たちが、自分たちの過去の研究史について、真摯な反省をして、そのことをきちっと謝罪し、補償もともなって、きっちりやるべきだと思いますけれども。まあ百々さん個人は、「私はそんなこと恐ろしくてできないんです」というふうにおっしゃってましたけれども、それも僕は、とんでもない話だな、というふうに思いますけれども。
従来の人類学者たちがやはりそういうふうに言い続けながら遺骨の研究を継続してきたし、これからもしたいと思ってらっしゃる。それは結局、このお骨を、すべてのお骨をですね、コタンに返してもらいたいとアイヌの方たちが思ってらっしゃるにもかかわらず、そのお骨がいま、2020年までに白老(町内に建設が予定されている国立)の「慰霊空間」に納められようとしているわけですけれども、そこについて札幌医大はまったく分かっていなかった、というのは驚いたんですけれど。札幌医大の発言として、「あそこ(白老に新設予定の慰霊施設)は単に一時預ける場所であって、あとはお骨はアイヌに返す。そのために一時預けるんです」というふうにおっしゃって。「研究は一切しません」というのが、札幌医大の了解でした。
しかしそれは事実に反するものであってね。あそこの「慰霊空間」に納めたお骨は、「アイヌと協議したうえで研究に使うことができる」という文書がちゃんとできて、政府の文書のなかに出てますからね、はっきり。研究ということが目的の中に入っているんですよ。そのことを、少なくとも札幌医大が理解していないというか。ちょっと驚きましたけれども。
いま、そういう状況の中で、いちおうわれわれとしては、文書を差し上げて、1カ月後に回答いただくということで帰ってきました。これがわたしたちの状況です。
清水裕二・北大開示文書研究会共同代表/コタンの会代表
概略は殿平さんからありましたけど、(会合が)終わったあと、百々幸雄──という東北大学名誉教授の方ですけど──と、ちょっと話をしてみました。「(遺骨を)研究しなかったらアイヌの先住性、アイヌの生きてきた証拠が残らない」という言い方があったのでね、非常に驚くことでしたけど、あえてね、私はへそ曲がりですから、「百々先生? 日本人類学会は1万体以上の日本人のお骨を持っていて、研究させてもらっている、と言って、文句を言うのはアイヌだけだ、みたいなことを言われました。(研究しなければ)アイヌの存在が消える、とも言われました。じゃあ、日本人のお骨の研究をやめたら、日本人もみんな、消えてしまうのかい?」と聞いたの。百々さん、返事に困ってましたけどね。目をシロクロしてましたけどね。
そこもね、いかにアイヌを冒涜しているか、証明される状況だったと思っています。非常に数々、腹の立つような言葉が、この百々さんという方から出ましたね。本来、われわれは、百々さんの(会合への)出席は予想もしていなかった、突然のことでね。本人は「立会人として出席した」と言っていました。百々さんは東北大学名誉教授ですから、たまたま研究か何かでこっち(札幌)に来ていたところ、こういうの(会合)があると聞いて立会人として参加した、という言い方なんですが、それにしてもね、冒頭から(百々氏の)声を荒立てた、激怒した(口調の)質問が出てきたっていうことはね。恫喝すれば、声を荒げて恫喝すれば、アイヌは黙って言うことを聞くんだ、みたいな認識が──言葉悪いかな──いわゆる、(報道陣に向かって)みなさんがた、和人のみなさま、シャモのみなさまにあるんだな、ということを実感しましたよ。
木村二三夫・平取アイヌ遺骨を考える会共同代表/平取アイヌ協会副会長
平取の木村です。おれはいつも、この関係者に考えてもらいたいのはね、まず「人である人」として。アイヌ語で「アイヌネノアンアイヌ」って言うんだけどもね。そういうふうに関わってもらいたいなあって。
自分は特に、平取アイヌ協会と北大とのやり取りでね、近いうち、(平取町内から持ち出されたまま北海道大学に保管されている)遺骨を引き取れる環境になると思うんだけどもね。すべての大学の人たちに、今さっき言ったことを言いたいな、と思っています。
おれ個人としては、明治初期に新冠の御料牧場開設の時にね、(在住のアイヌの人々が)強制移住でおれの町の奥へ、上貫気別ちゅうとこへ強制移住できたんですよね。(移住を強いられた後に)そこ(で亡くなって埋葬された人の墓)から遺骨を掘り起こされてね、大学等にいってるんだけども。今度大学から白老へ集骨されるちゅうことになると、3回目の「強制移住」になるんですよね。
人間みな平等だって言ってるのにね、なんでアイヌだけがこんなことをされなければならないのか。やっぱりこういった歴史をね、やっぱり大学関係者、それから人類学、考古学の連中は、もっと深く、この歴史を踏み込んで勉強してもらいたい、そこから始めてもらいたいと、今日つくづく感じました。
ただ今日、ああ嬉しかったなと思うのは、札医大のほうでは、地域に返還するちゅう話も出てきたんでね、よかったなと思いながら。いま平取アイヌ協会は盛んに遺骨返還問題に取り組んでいるもんですからね、ちょっと収獲があったかなと思って帰ってきました。言いたいことはたくさんあるんだけども。
Q 今回DNAを調べられた中には、平取からの遺骨も含まれていたんでしょうか?
木村二三夫
(札医大には平取からの遺骨が)10体保管されているが、DNAを取られたかは分からない。
殿平善彦
今回の(DNA試料を採取したという)100体(の地元)でしょう? わたしたちも(札幌医科大学側に)質問したんですけど、松村(札幌医科大学教授)さんはこう言ったんですね。「わたしたちは直接関係していません」「これは(学外の)研究者がやったものであって、どの遺骨を研究したかも一切分かりません」ということですわ。「わたしたちが研究者に聞いて、調べて、回答します」という言い方でした。
木村二三夫
もう一言いいかな? アイヌはね、死んでから行く世界をポクナモシリというんだよね。そこに行くのにね、さんざん研究で傷つけられたままでポクナモシリに行かんきゃならんわけだからさ。ほんとに、人として、そのへんのことを考えてもらいたいなと思います。
山崎良雄・コタンの会副代表
コタンの会の山崎良雄です。北大との遺骨返還訴訟原告の城野口ユリの弟です。きょう驚いたことは、札医大の教授百々氏)がなんかこう、けんか腰のような口調で、こっちは話し合いに行ったつもりが、殿平共同代表も清水共同代表もちょっと怒りに発した言葉も出ましたが、これが大学教授か? なんか(相手を)見下げた感じを私は受けました。自分たちが研究しているからどうのと……。研究者がどんなルートでアイヌの人骨を持って行ったのか。(それを不問にしたまま、いまなお研究材料として利用し続け)それが研究成果になる……(百々氏が執筆した)本には謝罪を書いた、というようなことも言っておりましたが、私はその本を読んでいませんから分かりませんけれど、実際これは、研究者(ムラ)の中で(のみ)分かるんであって、広く国民に分かりやすい研究成果の説明をしているんでしょうか? ましてわたしらアイヌの子孫の人たち、小川隆吉さんも子孫、遺骨を持って行かれた悔しさですね……。研究者ちゅうのは、そういう人間の尊厳、木村さんが先ほど話しましたが、これをもっともっと掘り下げて考えてもらいたいなと、わたしは思っています。
神谷広道・コタンの会事務局
新ひだか町からきました神谷広道と申します。今回「コタンの会」に入りまして、こういう席に着くのは初めてなんですけど。開示文書研究会とともにやってるんですけど。2020年には白老に遺骨を納めるものができる、ということですが、(そうではなしに)地元に、コタンに遺骨を返す。あそこに行くとまた研究されると言われています。北海道アイヌ協会も、コタンに遺骨を返すことについては目をつむっているという感じなんですよね。わたしも静内の(アイヌ協会の)会員で、役員もやってるんですけど。その部分(地元への遺骨返還)については、いっさい触れないんですね、会長とかね。(しかし)その部分においては、(北海道アイヌ協会の方針とは異なろうとも)白老のあそこには持っていかない、コタンに遺骨を返す、という気持ちで頑張ってやっていきたいと思っています。