「サケ漁業権確認訴訟」支援センター > 裁判所への意見陳述
陳述書
【現住所】
田村直美
札幌高等裁判所第3民事部2係 御中
2025年7月10日
1、 私は、両親ともにアイヌのルーツを持っています。
父方の祖父は和人ですが、祖母はアイヌであり、母方の祖父母はともにアイヌです。母方の曽祖父であるキリサテは、白老町社台地域のコタンコロクルでした。
コタンコロクルとは、コタンの長であり、外交、行政、司法といったコタン運営において長老を集めてその話し合いをまとめていくとともに、神を祀り、コタンの重要な祭祀を行うことが職務でした。
キリサテは、明治時代にコタンコロクルとして、部落改善、土地問
題、子弟の教育など、白老コタンのために貢献し、晩年には土人部落協
会の2代目会長に就任し、白老コタンの近代的リーダーの先駆けであっ
たという資料が残っています。出典は不明ですが、北海道アイヌ協会の竹内渉さん(現在退職)が、母方の祖父である森久吉(北海道アイヌ協会2代目理事長)のことを調べて、母宛てに送ってくださった資料を添付しておきます。
母方の祖先の写真は今も手元にあります。
2、 私が、自分のアイヌのルーツを受け入れたきっかけは、「アイヌ民族は、自分たちも自然の一部だという素晴らしい精神性を持った民族である」というメッセージに出会ったことです。
それまで私は、自らのアイヌのルーツには目を向けようとしていませんでした。
両親からアイヌだということを言われず育ったある日、突然私は「お前アイヌだろ!」と言われ、中学入学と同時にいじめが始まりました。
「ばい菌がうつる」「あ、犬だ」「臭い」などと言われ、身体的なことも言われました。いじめにより、自分が嫌いになり、なるべく目立たないように自分を殺して過ごしました。
白老にいるとアイヌと言われる、大人になったら白老から出る、ということばかり考えていました。「ア」とか「アイ」とつく言葉を見たり聞いたりするだけで、動悸が激しくなり、苦しくなりました。
真実を知るのが怖くて、親にも言えずにいました。「親から言われたわけではない。もしかしたらアイヌと違うかも。」、それだけが心の支えでした。
でも、このメッセージに出会ったとき、私は初めて、アイヌの血が自分の中に流れていることに誇りを持つことができました。アイヌの精神性を取り戻すことは、‘‘自分を生きる”ことにつながると思いました。
では、どうしたらいいのかと考え、私は勉強を始めました。
誹謗中傷などでへこたれそうになった時、手元に届いた曽祖父サリキテの資料を読み、写真に触れ、このままでは終われないという強い気持ちになりました。
あの言葉に出会い、自分のルーツを受け入れてからは、「自分を生きている」感じがします。
3、 そして私は、アイヌ刺繍の講座を開き、アイヌ料理を提供したり指導したりするコミュニテイカフェ“ミナパチセ”を始めました。アイヌの活動のためのNPO法人“ウテカンパ”も設立して、地元の祭祀にも参加しています。
私は、アイヌ料理の提供や普及のために、畑をつくり、アイヌが食べていたとされるものを育てています。しかし、地元には豊かな食材がたくさんあるのに、利用したくても制限されています。
4、 アイヌにとって、自然の中で共存して分かち合うことはとても大切なことであり、自然の資源を捕獲したり、採取したりすることは、アイヌにとっての生命だと思います。
アイヌ集団である、ラボロアイヌネイションの川でのサケ捕獲は、認められるべきだと思います。季節に応じ、自然に感謝してその恵みをいただくことは、心を充たし、アイヌにとっての幸せを感じさせるものです。もし、このようなアイヌ文化が続いていたら、もっと心が豊かな「今」があったかもしれません。自然とともに生きる姿が人間らしい姿であり、アイヌとしての姿だと思います。
すべてのアイヌ集団がサケに限らず様々な魚や獣を捕獲したり、食草や野草を採取したり、木を切ったりすることができることがアイヌにとって大事です。このような権利が認められたうえで、アイヌ自身がその権利の行使を選択できるようにしてほしいと思います。
裁判所には、本件を判断する上で、今裁判で訴えている“そもそも”を知って判断してほしいと思います。そもそも、アイヌから権利や文化を奪ったのは国なのです。アイヌが権利や文化を奪われた歴史を考えてほしいのです。事実を認め、事実に立ち返ったとき、アイヌだけではなく、日本全体が心豊かな国になると信じています。
そして裁判所には、世界の先住民族の権利状況を知ってほしいと思います。
法律が、先住民族であるアイヌを守るものであることを願います。
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2024年12月27日、北大開示文書研究会