「サケ漁業権確認訴訟」支援センター > 裁判所への意見陳述
陳述書
差間啓全
1 アイヌとしてのルーツ
私は、ラポロアイ又ネイションの前会長をしていました。会長だった差間正樹さんが突然亡くなり、私は正樹さんのあとを引き継いで活動していましたが、今年の総会で会長を降りました。
私の父は正樹さんの兄に当たります。祖父(差間佐資)は差間漁業部という会社を作って地域のアイヌでは初めて「網元」として定置網漁を始めました。
祖母(ウメノ)の兄弟に上西晴治という人がいます。上西は「十勝平野」という小説を書き、私たちの先祖の実話を書きました。先祖は和人からの差別や嫌がらせを受けながらもそれに負けずにアイヌとして生きていました。祖母は十勝太のアイヌで、祖父は白糠のアイヌです。
2 遺骨返還をきっかけに提訴
ラポロアイヌネイションは、北海道大学、東京大学などの教授が学問の為として私たちの先祖の遺骨を、盗掘まがいに持ち去った遣骨の返還を求める裁判を起こしました。札幌医科大を含めて3つの大学と和解し合計102体の遣骨が返還されました。私たちは、アイヌの伝統に従い、102体の遺体を土に返すために浦幌墓苑に再埋葬を行いました。北海道大学からは遣骨とともにたくさんの副葬品も返還されました。その中にアバリという網の修理をする道具がありました。私はこのアバリを見たときに、私達の先祖が川でのサケ漁に網を使っていたことを衝撃をもって知ったのです。この大きさのアバリだと網の目が大きく川漁であれば、サケ漁以外には考えられないからです。このアバリを見たときに受けた衝撃が、この訴訟を起こすきっかけになった事は忘れることができません。
3 奪われた私たちの権利
日本政府は、アイヌの聖地であるこの大地に、入植者達を好き勝手に入り込ませ、私達の先祖から、土地や資源や全てのものを奪いました。そしてアイヌは日本人として同化させられ、和人の生活を強要させられました。上西晴治の書いた「十勝平野」には土地や資源を奪われ、和人から差別を受けながらも力強く生きた先祖のことが描かれています。私たちの、土地や自然資源に対する権利は、日本の憲法や法律ができる前から私たちアイヌが持っていたもので、固有の権利と言われていることを知りました。この権利は決して奪われるものではないし、私たちアイヌは放棄もしていません。裁判所には、この当然のことを認めてほしいのです。
現代になって、政府はアイヌを先住民族と認識し、具体的に法律や制度を施行させてきました。しかし、現状は、法律で「アイヌ文化の振興」を謳っていながら、私たちの権利を認めてはいません。
4 サケ漁は先祖からの生業
このアイヌ施策推進法は、アイヌ文化とは、経済的活動を含む承継されてきた生活様式を含むものであるとしているのですから、経済的活動としての私たちの生業をアイヌ文化として認め、振興するベきです。
アイヌ施策推進法2条2項では、アイヌ施策について、以下のとおリ定義しています。
"アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発(アイヌ文化の振興等)並びにアイヌの人々が民族としての誇りを持つて生活する為のアイヌ文化の振興等に資する環境の整備に関する施策"
そして2条1項では、アイヌ文化について次の様に定義しています。
アイヌ文化とは、「アイヌ語並びにアイヌにおいて承継されてきた生活様式、音楽、舞踊、工芸その他の文化的所産及びこれから発展した文化的所産をいう」
この様にアイヌ施策推進法において、初めて「承継されてきた生活様式」がアイヌ文化に含まれると明記され、単に言語、音楽、舞踊等に限らず、生活様式そのものが文化であることが確立されました。
この生活様式とは、経済的活動を含むアイヌの生き方や暮らし方(生業)のことです。
アイヌの生き方や暮らし方そのものがアイヌ文化であり、アイヌの生業としての経済的活動そのものが文化です。私たち十勝川河口部のアイヌにとってアイヌ文化とは先祖が行ってきたサケ漁なのです。
私たちの求めるサケ捕獲権が否定されることは、私たちの文化に対する権利が無視されていることになります。
5 誇りを持って生きたい
アイヌ施策の在リ方に関する有識者懇談会の報告書では、国がとるベきアイヌの人々の文化の復興施策の対象について、「近代化政策の結果として、打撃を被った先住民族としてのアイヌの人々の文化の復興の対象は、言語、音楽、舞踊、工芸等に加えて、土地利用の形態等をも含む民族固有の生活様式の総体と考えるベきである」とし、その上でアイヌ文化の実践、継承を行うことが可能となるような環境整備を図っていくことや、経済活動との連携等により自律的な生活の回復に結びつけていくような取り組みを促進していくことが重要であると述ベています。有識者懇談会は、アイヌの文化の復興の対象は、土地利用の形態等をも含む民族固有の生活様式総体であり、その上での経済活動を含んだ自律的な生活を回復させる取リ組み、政策を求めているのです。復興されるベき文化は、「土地利用の形態等をも含む民族固有の生活様式の総体」であり、経済活動を含んだ自律的な生活を回復させることが国の責務と明記しています。
裁判所を含めた国の機関は、アイヌ文化としてのサケ捕獲権を認め、私たちが自律的な生活を回復させる義務があるのです。そして、何よりもこの裁判において、私たちのサケ捕獲権を文化享有権として認められなければなりません。
私たちは、それによってこそ、アイヌが自律的な生活を回復し、経済的に自律して、福祉政策に頼らずに,誇りを持って生きることができるのです。
今年の1月25日、内閣官房によるアイヌ施策推進法の5年後の見直しとして、私達の浦幌町厚内で開催され、意見交換し新しい施策を話し合いました。
私達は今述べたようなことを意見書として、内閣官房アイヌ政策室に正式に提出しました。
前会長の差間正樹が判決前に亡くなりましたが、私たちは、その意思を引き継ぎ、また先祖の意思を引き継ぎ、権利を獲得するまで、一丸となって戦います。
世代が変わっても、アイヌが奪われた様々な事を返してもらうまで、先駆者達が不甲斐なく、みじめに追いやられたその魂と一緒に、又、声を出したくても出せない同志の為にも私達ラポロアイヌネイションが先頭にたって戦い続けます。
今の私たちの成し遂げようとしている姿こそ、先駆者への供養につながると思っています。
2025年9月16日
【現住所、署名】
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2024年12月27日、北大開示文書研究会