「サケ漁業権確認訴訟」支援センター > 裁判所への意見陳述

陳述書

井上千晴

1980年室蘭市に生まれ、アイヌにルーツを持つ母の故郷、浦河町に1歳から暮らす。保育園、小学校、中学校と1学年1クラス30人程、私以外にアイヌの同級生は1人。和人が多い環境で育った。

「あ!イヌだ」と指を指され、悔しくて悲しくて泣いた小学生時代。その悲しさを紛らわすのは夕方の誰もいない公園のブランコ。空まで届けと思いっきりブランコを漕ぐ。死別した一つ上の姉に向かって話しかけていた。

中学生の頃の宿泊研修では、朝目覚めると髪の毛いっぱいにチョコレートが絡まっていた。同世代の子たちはなぜそのようなことをしたのかは分からないが私の中では「自分がアイヌだからだ……。」と思った。それ以上追及するのも考えるのも辛いから、自分の中で完結する。いつもそう。

ある日、母に「なんでアイヌに産んだの!」と泣いて訴えたことがある。

毛深くてまゆげもつながっている、周りの人と容姿が違う……。思春期の私は自分自身が大嫌いであった。

母の勧めで札幌の高校に進学。アイヌであることを隠して生きていた。とても自由で生き生きと過ごしていた。あとから分かるが、札幌への進学を勧めたのは、狭い町で生きていも大変、自分らしくあって欲しいという母の願いだった。母は大変な思いをして生きてきた、自分と同じ人生を歩んで欲しくなかったのだ。

30代になり、結婚、出産。子どもが大きくなるにつれて「自分は自分に嘘をついて生きていて良いのだろうか。」と感じるようになった。アイヌとして生まれたのにアイヌを否定して生きている、辛い過去から向き合えずにいた。そんな時、宇梶静江さんが後藤新平賞を受賞、静江さんと親交があった母に誘われ東京の授賞式に息子と3人で出席した。授賞式の壇上で静江さんはきらきらとしていた。これまでの活動のこと、アイヌとしての想いを堂々と話す静江さんに「こんなに素敵なアイヌの女性がいるなんて。」と、物凄い衝撃を受けた。その日の夜「アイヌとしての自分と向き合って生きて行こう。」と私は決意した。

それから5年、アイヌとして出来ることを何でもやってきた。アイヌ舞踊を通して同世代のアイヌの友人も沢山出来た。多くの友人は生活するために仕事を持ち、仕事終わりや休日にアイヌのことをする。アイヌのことをする……おかしな表現だが現状を伝えるにはこの言葉を選ぶ。仕事終わりにアイヌ語を学んだり、アイヌ関連の講座に参加したり。休日には舞踊や工芸を学ぶ。アイヌとして当たり前のことを取得しようと必死になっている。みんな本当に頑張っている。

私は今、森川海のアイヌ先住権を見える化するプロジェクトの副代表として活動している。北海道各地のエカシ(尊敬する年配の男性)、フチ(尊敬する年配の女性)から聞き取りをしている。「どのような暮らしをしてきましたか」「資源をどのように利用管理してきましたか」と、テーマを持って聞き取りをしているが、基本的にはご本人に自由に話してもらう。

お話を聞いて思うのは、私よりひとつかふたつ上の世代の人たちは、先祖の暮らしぶりをしっかり受け継いで、コタン(村)にある自然資源を大切に利用したり管理していたことである。明治以降、アイヌの土地や資源に対する権利が奪われてしまい、川でサケが獲れなくなっただけでなく、山菜を採るのも難しくなってきたようだ。それは、森や川などの土地や自然をすべて和人が法で管理するようになったからだ。

かつてはアイヌが自分たちの食べ物や衣服や儀式などすべてのことに、自然にある恵みを自由に使うことが出来ていた。でも今は、和人と同じように、資源を管理し規制するようになった。山や森で木を一本伐るのも、山菜をとるのも、キナ(ゴザ)編みに必要なガマを採るのも、和人の法では違法になってしまう。

しかし、アイヌが大切に使い管理していた山菜の資源も和人が入り込み、根こそぎ持っていってしまう。食べる分以上に山菜を売る目的があるという悲しい現状がある。

私たちが聞き取りをしたフチのほとんどが「山に入って山菜を採る時は、その日家族が食べる分だけ採るんだよ。全部採ってはいけませんよ。」と言っていた。他の人も採って食べるだろうし、来年また生えてきてくれるように……。自分だけ良ければ良い、そんな考えは誰も持っていなかった。人にも自然にも優しい気持ちで向き合うアイヌの精神が私は好きである。

でも、「和人の法」は違う。そういうアイヌの考え方は無視され、アイヌの暮らしも奪っておきながら、和人の資源に対する無法で横暴な行為は……ない。

今、川でサケを獲る権利を求めて裁判が行われているが、それ以外の地域のアイヌも自然の資源を自分たちで自由に使うことが出来ればどんなにいいだろうかとおもっている。

そんなことをすれば資源が枯渇するという人もいるかもしれない、けれども、私たちアイヌは、全部くださいとは言いません。根こそぎとってやろうとも思っていません。

むしろ、私たちの先祖がもっていた、自然に対する「知」というものをアイヌも和人もともに学んでいきましょうと言いたい。

限りある資源を大切に守っていこうと大切な資源を守るためにアイヌの知恵、精神をみんなで共有し次の世代、また次の世代に繋げていくことが出来たら、なんて素敵なことでしょう。私たちアイヌが本当の誇りを取り戻すためにも、自然資源への権利はぜひ、認めて欲しいと思う。

参考:森川海アイヌ先住権を見える化するプロジェクトホームページ

令和7年9月3日
【現住所、署名】


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2024年12月27日、北大開示文書研究会