口頭弁論の記録
控訴審第2回期日 2025年6月19日
意見陳述書
2025年6月19日
ラポロアイヌネイション会長 丹野るみか
私は、令和7年度よりラポロアイヌネイションの会長に就任いたしました、丹野るみかです。
最初に私の生い立ちについて述べたいと思います。
私の祖母と叔母はアイヌとして生まれ、育ちました。二人ともアイヌ文化の継承者です。祖母は浦幌町愛牛(あいうし)のアイヌの家庭に生まれ育ち、祖父と結婚し尺別(しゃくべつ)・厚内(あつない)へと移り住みました。ラボロアイヌネイションが浦幌アイヌ協会と称していた時期に、北海道大学に持ち去られた先祖の遺骨を取り戻したのは、まさにこの愛牛コタンの人たちの遺骨でした。
祖母は、私が幼少期のころ、アイヌ古式舞踊を踊ったり、衣服などのアイヌ刺しゅうをしたり、アイヌ料理を作ったりしていました。祖母は、帯広カムイトウウポポ保存会へ属し、アイヌ古式舞踊を踊っていました。そのため浦幌町の厚内に住みながら週末になると帯広へ出向き親戚や知り合いの家に泊まらせていただきながら、アイヌ古式舞踊の練習に参加していました。その頃の帯広カムイトウウポポ保存会は、弟子屈町にある川湯温泉、そして阿寒温泉へ、長い期間、アイヌ古式舞踊を披露するために泊まり込みで行くこともあったと聞きました。私は、叔母に連れられ時々その踊りを見に行っていました。今思うと、とても貴重な体験をしていたのだと気づきました。
私にとっては、アイヌ古式舞踊はアイヌとしての原点であり、私が先祖からアイヌであり、この大地に暮らしていることの誇りでもあるからです。ラポロアイヌネイションは、3年前からアイヌ古式舞踊を学ぶようになりました。その踊りはまだまだ未熟ではありますが、ラボロアイヌネイションが行うカムイノミ・イチャルパなどの儀式の際に奉納できるようになりました。ラポロアイヌネイションのメンバーが踊る時、私は踊りの歌い手として携わらせていただいています。
浦幌のアイヌは長い間の同化政策によって、これまでカムイノミ・イチャルパ、アシリチェプノミなどの儀式をはじめ、アイヌ古式舞踊、アイヌ刺しゅう等の継承が途絶えてしまいました。しかし、ラポロアイヌネイションが、浦幌のアイヌとしてこれからこれらの文化を復活、継承していけたらと思っています。
私の叔母は、祖母が刺しゅうしている所を見て刺しゅうをするようになったと話してくれました。叔母は、アイヌ刺しゅうを二風谷や札幌などで開催される講座に参加しながら多くの先輩アイヌの方々から学んできました。叔母がアイヌ刺しゅうをするようになって30年ほど経つそうですが、私たちに継承するため、今でも勉強しています。私がアイヌ刺しゅうをするようになったのは7年ほど前ですが、何名かの講師の方に教わりましたが、ほとんどは叔母から教えていただいています。私は、まだまだ経験は浅いですが引き続きアイヌ刺しゅうを学び、自分の子供や孫がやりたいと言った時、きちんと継承できるようにしたいと思っています。
ラポロアイヌネイションが5年前から、祭事をする際にアイヌ料理でおもてなしするようになり、私たちラポロアイヌネイションのメンバーは叔母からアイヌ料理を教わりました。
アイヌ料理には、サケが必要不可欠な食材です。アイヌは昔からサケを大事に食していました。アイヌ語でサケは「シペ」と呼ばれることもあり、「本当の食べ物」という意味で、アイヌにとってサケは、料理や保存食、被服に交易の品物として生活を支える大事な物でした。サケはアイヌにとって、アイヌとして生きる基礎となるものであり、アイヌであることを自覚させる精神的な支えでもあります。アイヌからサケを取ったら、アイヌではないことを意味すると思います。
このことは今を生きるアイヌにとっても同じです。ラボロアイヌネイションは、道に特別採捕の申請をして川でサケを獲る許可を得ていますが、捕獲したサケの使用用途が制限されており、捕獲したサケをアイヌが自由に食すことすらできません。
アイヌ古式舞踊や刺しゅう、料理も大事なアイヌ文化であり、それを継承することはアイヌ文化を引き継いでいく大事なことです。それだけではなく、先祖が行ってきた川でサケを獲り、カムイチェプに感謝し、サケを大事に扱ってきたということを今のアイヌが行うことも大切なアイヌ文化の継承になります。アイヌが自由に食することさえできないサケの豊漁を祈る儀式、そのためだけにサケの捕獲を認めることは、矛盾だと思います。サケを自由に獲ることは、アイヌがアイヌとして生きることなのです。儀式のためだけではありません。
アイヌ古式舞踊やアイヌ刺しゅうは博物館で見ることができるかもしれません。しかし、サケを自由に獲ることによってアイヌとして生きることは、博物館ではできません。それは私たちがアイヌであることそのものの証なのです。
私はたくさんのアイヌ文化を継承していけるように、これからも学び続け、誇りを持ってアイヌとして生きていこうと思います。
(2025年6月19日、札幌高等裁判所802号法廷で陳述)
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2024年12月27日、北大開示文書研究会