裁判の記録
第2回口頭弁論 2020年12月17日(木曜)15:00
差間正樹ラポロアイヌネイション名誉会長の意見陳述
1 私は、ラポロアイヌネイションの名誉代表をしております。ラポロアイヌネイションは、旧称は浦幌アイヌ協会といい、私は長年この会長をしておりました。今年の7月にラポロアイヌネイションと名称を変更し、名誉会長になりました。ラポロとは浦幌の名の由来であるアイヌ語のオーラポロから取りました。なぜ、名称の変更をしたかというと、私たちの祖先はコタンという集団を作り、この集団が十勝川でサケ捕獲権を有していたことから、私たち子孫もこのサケ捕獲権を復活させることを目指す団体になろうと決断したからです。私たちもかつてのコタンのようにサケ捕獲権を持ち、自己決定権を持つ組織になっていくことができれば、という決意を込めて名称を変更しました。
2 私が、自分がアイヌだと確実に分かったのは高校卒業の時でした。大学入学に必要な戸籍を取り寄せたとき、祖父と祖母の名がエコシップ、モンノスパという名前だったからです。母に「この人は?」と聞いても何も言いませんでした。両親はアイヌだということを隠していたのです。しかし、隠しようはなかったのでした。父はサケの定置網の権利を取得しましたが、他の和人の漁師から漁獲の多い定置の場所を取られたりして、いろいろな嫌がらせを受けていました。私も何か変だと思いながらいじめにあっていました。私は高校生まではたぶん自分もアイヌなのだなと思っていました。中学時代はアイヌということで暴力的ないじめにもあっていました。子供ながら理不尽だと思いましたが何もできませんでした。しかし、40歳代になって、アイヌであることを隠すのはやめようと思うようになり、「俺はアイヌだ」と面と向かって言うことにしました。すると、今まで嫌がらせをしてきた人たちは、嫌がらせをしなくなりました。母は十勝太アイヌで、父は白糠アイヌです。私は今では胸を張って生粋のアイヌとして誇りを持っています。
3 私たちはこの5年の間に十勝川下流域にあった愛牛コタン、十勝太コタンなどのアイヌ墓地から研究者によって持ち去られた先祖の遺骨102体を北大、札医大、東大から取り戻し、浦幌博物館からは十勝太の遺跡から発掘された江戸時代のアイヌ遺骨を返還してもらいました。私がアイヌ遺骨をアイヌに帰させるべきだと思うようになったのは、北大納骨堂の前でのイチャㇽパ(慰霊祭)に参加した時でした。私は北海道アイヌ協会十勝支部連合会で、「アイヌの遺骨は全部地元に帰させるべきだ」と発言したのですが、幹部たちから「そんなことは無理だべ」と笑われました。しかし、先祖の遺骨を返還させることはアイヌの権利だと思い、裁判を起こして、遺骨を取り戻したのです。私たちは、自分たちの声をあげなければ何も前に進むことはできないと確信しました。
4 私は、3年前に、サケ捕獲権の勉強をするためにアメリカのワシントン州のインディアントライブを訪れました。そこでは1960年代にサケの捕獲を巡ってインディアントライブと州との「魚戦争」と呼ばれる闘いがありました。インディアンの人たちは自分たちの権利を主張し、1974年に連邦地裁で、その後連邦最高裁で勝利しました。私はアメリカでも自分たちの権利を守るために先人たちが大変な努力をしていたことを知りました。現在では、インディアンの人たちは州や連邦と協力してサケ資源保全のために川の生態系を維持する活動もしています。私も十勝川の生態系を保全し、サケ資源をはじめとする豊かな自然環境を守っていかなければならないと思っています。
5 私は、父の跡を継いでサケの定置網の網元をしています。定置網は海での漁ですが、やはりアイヌとして川でのサケ漁へのこだわりを持っています。遺骨返還の際に副葬品として手作りの網針という網を修理する道具が返還されました。網針の大きさからいって川でのサケ漁のための刺し網を修理する道具だと思います。私たちの先祖は川で刺し網漁をしていたのだと知りました。サケを獲り家族の生活を支え、またサケを加工して交易し、先祖たちは豊かな生活をしていたと思います。
6 かつて先祖たちが漁をしていた川は、今、浦幌十勝川と呼ばれている川です。現在の十勝川は河川工事で豊頃町大津に流れていますが、もともとは、浦幌十勝川こそが十勝川の本流だったのです。かつては川幅が200メートル以上あった川は、上流部で十勝川で分断されたため50メートルほどの細い川になってしまいました。今は分断された十勝川から導水路を使って、最大毎秒9立方メートルの水が引かれているだけです。そのため、浦幌十勝川を遡上するサケはほとんど十勝川に上ることはありません。それでも、私たちにとっては、先祖から受け継いだ貴重なサケなのです。そしていつの日かより多くの野生のサケがのぼる浦幌十勝川にしたいと思っています。
私たちは、サケを生活のため、また経済活動のために捕獲したいと思っています。それによってアイヌが自立し、生活できることを望んでいます。
私たちは川を取り戻し、サケを取り戻し、生活を取り戻したいのです。
2020年12月17日
Raporo Ainu Nation’s lawsuit over indigenous fishing rights: Statement of Opinion of Mr. Masaki Sashima (December 17, 2020)