訴状/裁判書面/判決

訴状から冒頭部分の抜粋

請求の原因

はじめに

本件は、浦幌町内唯一のアイヌ集団である原告が、浦幌十勝川河口部においてサケを捕獲する権利を有することの確認を求める訴えである。

明治になるまで、北海道、千島、カラフトに居住していたアイヌの各小集団(コタンと称されている)は、当該各集団の支配領域(イオルと称されていた)において、サケをはじめとする自然資源を独占的・排他的に使用し、利用していた。このうちサケは、アイヌにとって主要な食糧であるとともに、和人との交易品としても利用されており、重要な経済活動の資源でもあった。

明治6年、明治政府は現札幌市の主要な河川におけるサケの引き網漁を禁止し、明治11年に札幌郡におけるサケマス漁を一切禁止した。その後サケマスの捕獲の禁止が全道に広がり、明治30年には、自家用としてのサケマスの捕獲も禁止した。現在は、後記するように、国及び北海道によって河川におけるサケ漁について和人、アイヌに限らず、原則として禁止されている。原告は十勝川及び浦幌十勝川において一切のサケを捕獲することが禁止されている。アイヌに関する唯一の例外は文化的伝承等のために北海道知事の許可を受けて一定数のサケの捕獲が認められているに過ぎない。

しかし、そもそも明治以降の日本政府によるアイヌ諸集団のサケ漁を禁止する合法的理由は現在に至るも全く明らかになっておらず、かえって違法と考えられている。少なくとも、アイヌ諸集団のサケ捕獲を禁止する各法令の合法的根拠は明らかにされていない。

アイヌの権利に関しては、札幌地裁平成5年(行ウ)第9号(いわゆる二風谷ダム事件)において、土地収用法20条3号の要件の検討の際に、ダム建設によって失われる利益・諸価値の一つとしてアイヌの文化享有権を認めたのが初めてである。判決によると、アイヌの文化享有権は、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「ICCPR」という。なお日本では一般にB規約とも称されるが、ここではInternational Covenant on Civil and Political Rightsの頭文字をとりICCPRということにする)27条及び憲法13条によって保障される、とされた。ただし、この文化享有権はICCPRの文言上(2条1項「すべての個人に対し」、26条「すべての者は」、27条「当該少数民族に属する者は」)個人の権利とされており、憲法13条も個人の権利を規定していると解されている。ちなみに最近では、ICCPR27条は集団の文化享有権を含むとする学説も散見されるようになったが、法文上は個人の権利として規定されている。

本件では、原告に属する構成員のアイヌ個人の権利としてサケ捕獲権を求めるものではなく、アイヌの個々の集団の権利として、集団としての原告がサケ捕獲権を有することの確認を求めるものである。この集団の権利は、講学上「先住権」と称されている権利のことである。原告は浦幌町に江戸時代から存在していた複数のコタンが自らの支配領域内において独占的・排他的に有していた漁猟権としてのサケ捕獲権を引き継いでいることを主張し、本件訴えを提起したものである。

(以下略)


裁判資料(原告提供の訴訟資料を公開しています)

裁判所提出日 ラポロアイヌネイション 国、北海道
2020/8/17 訴状  
2020/10/2   答弁書
2020/12/11   被告準備書面(1)
2021/2 原告準備書面(1)  
2021/5/31   被告準備書面(2)
2021/6/10 原告準備書面(2)  
2021/6/13   被告準備書面(3)
2021/9/1 原告準備書面(3)  
2021/11/11 原告準備書面(4)  
2022/2/10   被告準備書面(4)
2022/4/22 被告準備書面(5)
2022/4/28 原告準備書面(5)  
2022/7/29 原告準備書面(6)  
2022/8/ 原告準備書面(7)  
2022/9/ 意見書 小坂田裕子「【意見書】自由権規約に基づくアイヌ民族のサケ漁業権―先住民族の権利に関する自由権規約委員会の実行の発展と同委員会による規約解釈尊重の必要性―」(外部リンク)  
2022/11/18   被告準備書面(6)
2023/3/15 原告準備書面(8)
2023/3/15 原告準備書面(9)
2023/3/15 原告準備書面(10)  
2023/3/15 意見書 榎森進「アイヌ民族の日本における先住権の歴史的性格についてー近世における事実関係を中心にー」
2024/01/24 原告最終準備書面  
2024/01/25   被告準備書面(9)

札幌地方裁判所の判決(2024年4月18日)

主文

札幌地裁判決(PDF、21.4MB)